ちりめんじゃこの命

仮想のアドレナリン

都会のオアシスを見つけた件

この記事はちりいのアドベントカレンダーの8日目の記事です。

 


 

 

 

みなさんには都会のオアシスと呼べるような行きつけのお店ってありますか?


私自身、上京してからもう10年以上になりますが、そういったお店との巡り合わせは正直全くありませんでした。都会のお店なんてどこも結局混んでるし、疲れるし、狭いし、忙しそうだし、何よりそういった負の要素が”心と心の交流”を阻害してしまっているんです。

私が地元にいた頃は心の交流、したものです。通学路の途中にあったパン屋に毎日のように買い食い目的で通い詰めたら店主のおばさんと意気投合して、今でもたまに年賀状を送りあう関係にもなりました。

ああいう青春ストーリーもコミュニケーション取るくらいしか娯楽のねえクソ田舎だからこそ生まれたのです。都会のオアシスなんて、よくてお風呂の王様ですよ。

あの頃のあたたかみを追体験するような店は、終ぞ都会で出会うことはなかったのである。そんなナレーションとともに都会暮らし人生は幕引いていくもんだと信じて疑ってなかったんですがね。

来ましたね、かなりアツい体験・・・いや、

あったけえ体験がさ。

 

 

 

先日、仕事の休憩時間に会社の近くの定食屋に入った。

ところが入った瞬間に「そういや金下ろしてないな」と気づいたのだ。その店はオフィス街でランチメニューを提供する飲食店でありながら、今時キャッシュレス決済システムを全く取り入れていない。現金でしか会計ができないのだ。

今思えば都会のど真ん中に居を構えながら郷に従わないそのスタイルはかなり”素質”があったと思う。

席の案内のために店主が近づいてくるが俺はそれを制止する。
「すみません、お金持ってきてなかったです。やっぱ大丈夫です」
後ずさりつつ、「ラプトルから逃げるときスタイル」で店をゆっくり出ようとした。

すると店主は「ああ後でいい後でいい・・・」と半ば強引に俺を席まで誘導したのだ。

 

後でいい・・・?

 

都会ではまず耳にすることはない言葉に面食らう。”愛”という言葉を教えられてエラーを起こしたロボットのように「ガガ・・・?」「ピピ・・・?」と口ごもりながら、気づけば俺は席に通されていた。

いやこんないわゆる神対応って、あるんだなと思う反面、都会で”信用”で飯を食うってかなりの異世界体験なので、正直めちゃくちゃソワソワしてしまった。緊張感がすごい。

 

そんでメシ美味そう過ぎなんかい。漁港のメニュー?

都会の昼に食べられる刺身定食のエビは甘エビに相場が決まってるよね?そんな中この定食屋ではなんと赤エビが提供される。どうなってるんだ?そんなことが可能なのか?

 

 

 

ちなみに別日に行った時はこんな感じでした。いつ行っても、なんだよな。レベルの高い合格点をオールウェイズ出してくれる店とはまさにこのこと。

刺身定食でホタテって言うのもなかなかない。こいつは都会海鮮tier表の中でもかなりの上位帯に君臨するSSR食材だぞ小松。

オフィス街でまともに貝を見ようと思っても精々ペペロンチーノに入ってるアサリとかのザコ貝が関の山なんだから。


当然ながらその鮮度も味も言うことなし。しかも刺身定食の値段は驚きの980円だ。このクオリティの定食が1000円を切っている。「ヒルナンデスの中では存在しているらしいが本当にあるかは疑わしい激安優良店」じゃねえか。実在したのか……。

 

それだけにな。それだけに、金を持ってきていればという思いに苛まれる……。こんなに安いのに。ささやかな感謝の気持ちを伝える術すら持ち合わせていないのか。

 

巷では深夜に食べるラーメンを罪の味とか抜かしたりするけど、ヌルいこと言ってんじゃないよ。無銭飲食を承知で食わせてもらう刺身定食。これ以上の罪の味はこの世にはないだろうが。

 

とりあえずレジに足早に向かい、「ごめんさ~い急いで下ろしてきます〜」とアホの顔して言ったら店主はこう言った。
「いや次でいい次でいい・・・」と。

 

 

 

いや、あのね(笑)

 

 

良 い 訳 が な い ん で す わ

 

 


令和令和令和ーーーッッッ!!!!!!

性善説でみんなのお腹が膨れてた時代はもう終わってますよ!!!

論破冷笑暴露炎上爆乳ピアノに泥ママ制裁!!それが令和!!令和令和令和令和令和令和令和!!!!!!

あ~~~~~はいはい完全に理解した。さてはこれ利益度外視でやってるタイプの店だな?そう考えればすべてに合点がいく。

多分だけどこの鮮度の魚を1000円以下で提供できる理由にトリックなんてなくて、完全な痩せ我慢でやってるに違いない。

うちは腹一杯食べてくれるのを見るのが好きでやってるから〜。本当にそれだけの動機でやってる店。絶対にそうだ。

 

俺はちいかわ島編ばりの大考察を脳内に展開しつつ、三井住友銀行に駆け込む。銀行に行けずウダウダ言ってる吉高由里子を振り切り、マッハ5で定食屋に戻ると「流石にそれはです」と言って会計を済ませた。

そんな俺を見て店主は、
「別に良かったのに。ありがとうね〜」

などとそれは嬉しそう~~〜にニッコニコに微笑むのだった。

 


おい。

 


何笑とんねん。

 


無銭飲食されてなんだその笑顔は。何もありがとうなことなんかないだろうが。食い逃げされるのが嬉しいか?俺にタダ飯食われるのが喜びか?じゃあお母さんが食い逃げ犯になればいいってことなんだ?捕まればいいんだ?松屋でご飯を食べた後にそのまま席を立てばいいって思ってるんだ?そうなんだ?

 

ちーーーーーーーーがーーーーーーーーーーうーーーーーーーーーーーーだーーーーーーーーーーろーーーーーーーー


ちがうだろーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!

 

罵倒しろ!!中指を立てろ!!塩を撒かんかい!!バカ!!!!!!!ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ…………。本当に良くないです。

もうね、あーし決めました。この店今後も来ます。リピ確定です。

だってダメなんだもん。あたしがよく目を光らせてないと悪い大人に騙されるもん。

この店はあたしが守らないと。この人あたしがいないと何にもできないんだから……あたしが…あたしじゃなきゃ……ブツブツブツブツブツブツブツブツ……

 

ハッ!

すみません、あまりのハートフルに思わず歪な母性が。まあとにかくこれが私にとっての都会のオアシスとの出会いって訳です。

正直みんなにも教えてあげたいし、本来ならこの素晴らしい定食屋の名前を堂々と紹介したい!!

ところなんだけど、エピソードがエピソードだけにお店に迷惑がかかる可能性がゼロとは言い切れないので、店舗名は伏せさせて頂きます。すみませんね。

現代日本にもとんかつ幕情の心意気が残っているかは俺には分からないからね。とんかつをいつでも食べられるくらいの経済力があっても少しでも得をしてやろうという汚い魂胆の奴はいるもんです。

そもそも都会のオアシスって言葉だって本来はおかしいんだ。「都会が冷たい」という前提さえなければ生まれていない哀しい言葉なんだから。

一体誰が悪いんでしょうね。こんな日本に誰がした?

 

 

 

うんこいつらかもな。いや、もう確定でこいつらのせいだろ。決まり。

 

 

その日のうちに、私は東京の約9割を空爆した。

 

 

 

 

 

 

 

あの日、我々の政党「友友党(トモトモクラブ)」の信者が同時多発的に起こした"革命"により、政府は完全にその機能を喪失した。

 

その後私は手筈通り信者の暴動を鎮圧。自作自演で暴徒から日本を守った英雄と祭り上げられることに成功する。統一大統領を自称した私は、都市インフラや都民の個人情報に至るまでの全てを掌握し、東京を完全な管理体制下に置いた。

 

私は東京の9割を空爆したと言った。それは、残りの1割にはそのままにしておきたかった大切な場所があったからだ。

 

しかし今となっては、一体私が何を大切に思っていたのかまるで思い出せなくなってしまった。

 

全てを意のままに操り、手にすることができる今の私には、何かを"大切"と思う気持ちすら遠い過去のものになってしまっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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