ちりめんじゃこの命

仮想のアドレナリン

終電マダム

 


ご無沙汰しております、すだちです。

アイスを片手に失礼します。

 

今日は、私の半昔話*1をしたいと思います。

 

 

 


 

 

 

その日の私は終電に乗って、家の最寄駅へ向かっていた。

 

同じ学科の学生同士の飲み会の帰りだった。この飲み会で何を話していたのかは、記憶にあまり自信がない。

 

ただこの日の飲み会は、全学年が集まった大規模な物であり、普段話すきっかけがない人とじっくり話せたことや、もともとわいわい過ごすことが好きなこともあって、なんとなく楽しかったということは覚えている。ご飯も美味しかった。

 

そんなこんなで、この日はたまたま普段飲み会へ行くときよりも遅い電車、それも終電に乗ることになった。

 

あの、私が乗った終電、マジで人が居なかった。自分以外にもう1人居たような気がする…ぐらいな感じよ。

 

普段飲み会帰りに利用している時間帯の電車は、同じく飲み会帰りであろう学生や、残業が終わったのか疲れきった様子のスーツの社会人、旅行帰りの家族など色々な人間がごった返している。賑やかだ。

 

いつもなら、電車の中で眠くなったとしても、一駅一駅到着するたびに車内を出入りする人の足音で、都度、意識が戻る。

 

というか、そもそも人が多いから座ってウトウトするというシチュエーションになるとは限らず、最寄駅に到着するまで立ち続けていたことも多い。

 

だから、いつもなら、寝過ごしてしまうことって無いんですよね。

 

 

 

いつもなら。

 

 

 




 

 

 

 

気づいたら、終点に居た。

 

 

 


はーん?

 

 

 

周囲、誰も居ない。嘘。ホームに1人駅員さんが居る。アナウンス通りなら、今居る駅は終点であるA駅。本来降りる予定だった駅から、さらに何駅も進んだところにある駅。

 

 

Q.は?A駅?なんで?

 

A.寝過ごしたから。

 

 

 

いつも乗っている電車よりも、終電は静かだった。それで、つい深く眠ってしまったのかもしれない。

 

 

あ~~~~~~~~~~~~~~~やらかした。己のやらかしに気づきました。

 

 

今までも何回か、ウトウトしかけていて降りる予定だった駅を降りそびれたことはあった。なんならしっかり起きていたのに、スマホで漫画を読むのに夢中になっていて降りそびれたこともある。

 

それでも、1駅よ。1駅。一旦改札を出て、反対方向の電車乗るか~~~って判断する心の余裕もあるわけよ。

 

一方今回、何駅か過ぎている。それも終電。反対方向の電車乗るか~~~じゃないのよ。終電だから。終電で終点なのよ。

 

つまり、パニックパニックってわけです。

 

スマホの安否確認。充電が10%ちょっとしかない。心もとない。

 

っていうか、待って。確か、降りるはずだった駅で、家族が車で迎えに来てくれているんだった。とりあえず、家族に連絡しないといけない。降りる時間も伝えているし、心配させてしまっている。申し訳ない。

 

 

 

そりゃそう。本当に申し訳ない。

 

家族は、呆れながらもA駅まで迎えに行くと言ってくれた。ただ、本来降りる予定だった駅からA駅まではマジで結構かかる。車だと遠回りな道を走るので、もう少しかかるだろう。

 

私は、A駅を何回か訪れている。だから、少しは周辺の状況も知っている。日中は飲食店や雑貨、お土産屋さんで賑わっているのだが、ド深夜に営業している飲食店は、少なくとも目立つところにはなかった気がする。あと、コンビニがない。時間を潰せるようなチェーン店もない。

 

どこか明るい建物に入って家族を待つということは、不可能である。開いているお店が無いこともあり、周囲に人の気配もない。っていうか、シンプルに暗い。月と街灯のおかげで外の状況がかろうじて分かるぐらいだ。

 

迎えを待つ。スマホで漫画や動画を見ていたらあっという間かもしれないが、充電は10%ちょっと。いや、家族との通話で、7%ほどになっていた気がする。何かあっても良いように連絡手段であるスマホの充電は、温存しておきたい。

 

 

家族から、何か危険を感じた時のための最寄りの交番の地図が送られてきた。感謝しかない。

 

正直、こうも暗く自分の足音と息遣い、遠くで車の走行音しか聞こえないところで何もせずしばらく居続けるの、ちょっと怖いんだよな。日中だったら、駅周辺を散策して面白いものを見つけようとしていたと思うんだけど、暗くて周辺の状況も見えづらいんだよね。

 

改札を出て、すぐのところにあるベンチで待つことにした。そこは比較的明るくて、安全そうな感じがしたからだ。

 

 

 

 

ベンチに、発光するマダムが居た。

 

 

発光するマダムが、居たんだよ。

 

私が座ろうとしていたところに、さ。

 

 

 

目が合う。ゆっくり会釈された。

 

ここには私とマダムしか居ないので、私に向けられたものだろう。会釈で返した。

 

こんばんは。と声をかけられる。ちょっとビクッとした。話しかけられるとは思わなかったからだ。

 

こ、こんばんは〜〜〜ってへろへろのか細い声で返した。咄嗟に言葉を返そうとすると、なんか弱々しくなることないですか?

 

マダムから「学生さん?」と尋ねられる。「はい、大学生です」って答えたら、「○○大学?△△大学?勉強頑張ってて偉いなぁ」と褒められた。

 

 

すげ〜〜〜、気分良い。

 

私すだち、すっかり気分を良くする。当時の私は、ほぼ無遅刻無欠席だけど授業以外に進んで何か勉強しているかと言われるとそうとは言い切れない状況だった。もっと頑張っている人居るし…と常々感じていた。だから、褒められるとなんだかんだで嬉しい。

 

 

 

終電で終点に来ちまったことは最後まで言わなかった

 

 

今更なんだけど、こんなド深夜、周辺に誰もいないところで知らない人に話しかけられたときって、結構気を引き締めるべきところなのではないか。義務教育時代に、知らない人に話しかけられても付いていかない、自分のことをべらべら話してはいけない、と教わった。ふと、それを思い出した。

 

っていうかなぜマダムは、終電が去った後も駅の近くで座っているんだ。私と同じで終電で終点に来ちまったから、迎えを待っているのか。私は、マダムのことを全然分かっていない。

 

そもそもマダムは何故発光している?アルコールで自分の思っている以上に頭がふわふわしているのか?このマダムは実在しているマダムなのか?実在マダムか?

 

 

 

自分の生きる世界観をとにかくホラーorサスペンスにしたくなかったので、めちゃくちゃコミカルな動きをしながら、一緒に待つことをお願いしてみた。

 

マジでホラーあるいはサスペンスな展開にならないことを祈り、気持ちだけでも元気いっぱいな時空にしたかったので、脳内でJIND○UのWILD C○ALLENGERを流しまくっていた。

 

ここが一番明るいし、この場を離れて家族を待つ方が不安だった。かといって、ある程度話していた人との会話を打ち切って、この場で待ち続けることもなんか気まずかった。

 

それなら、一緒に待って良いかマダムに尋ねた方が良いと判断した。マダムの快諾に感謝。

 

 

 

 

 

 



初対面の人と話すときの話題は「天気」がベストだと何回か聞いたことがあったけれど、なんか納得した。天気の話ってめちゃくちゃしやすいわ。

 

あと、朝になったら、何か寒波が来るらしい。やだな。

 

 

 

話していくと、どうやらマダムは、このA駅の近くに住んでいるわけではないらしい。なんなら県内の人でもない。

 

この日のマダムは、知人に会うためにここまで来たらしい。そして、その知人が迎えに来るのを待っているのだとか。

 

私が言うのもなんだけど、深夜に??

 

 

 

責任重大かも。

 

おすすめの飲食店を答えるって、結構責任重大じゃないですか?この質問にそこまで大きな意味が無ければ良いのだけれど。

 

だって、遠方から来てくださった方の三食の一つが自分のチョイスで左右されると考えたら。自分の味覚や価値観と、マダムのそれは近しいものだろうか。合わなかったら申し訳ないな。

 

価格帯は?普段は、どのようなものを好んで食べているのか?そのあたりも気になるところである。

 

とりあえず、複数のお店の話をした。数日前に行ったカフェと、うどんのお店と、カレーのお店。なんかこういうのって、1個じゃなくて複数のジャンルを伝えた方が、責任が分散する気がする。もし行ってたら、マダム達の口に合ってると良いな。

 

 

 

 



 

大勝負ってなんだ。自分よりも人生経験のあるマダムの言う「人生で一番の大勝負」ってなんなんだ。

 

めちゃくちゃ気になったけど、初対面の人と話すときって、どこまで踏み込んで良いか分からないし、勝負の内容を言いたいなら聞かなくてもマダムの方から言いそうな気がする。聞かなかった。

 

でも、めちゃくちゃ気になるな。何を勝負すんのか分かんなかったけど、マダムの願う結果であってほしい。

 

 

 



マダムの携帯電話から着信音。知人の迎えが来たみたいだ。

 

 

 

 

「あなたと話しながら待てたから、寂しくなかった」「気をつけて帰ってな」と話すマダムは、最後まで発光していた。

 

 

 

私の方にも、家族からの連絡が来た。

 

 

 

 

いや、真っ暗〜〜〜〜〜。

 

駅そのものは、めちゃくちゃ明るいんだけど、ほんの少し歩くだけで街灯のあるところ以外は真っ暗で、全く人気がない。今、ここで生きているの自分だけ?って錯覚しちゃうぐらい、命の存在感がない。

 

ちょっと、いや、かなり気持ちが落ち着かないかも。

ストレートに言うと、怖い。

 

 

1時になろうとしていた。

 

 

 


 

 

私は日頃、周囲にお酒を飲んだ帰りに夜風にあたりながら駅まで帰る行為が好きだと話していた。肌に触れる風が気持ちよかったり、静かな雰囲気が好みだったりするからである。

 

しかし、それはあくまで、近くに他愛もない話ができる誰かが居た時に限定される。マダムと会い、それを実感した。一人で待ってたら、終始ビビってた。

 

マダム、本当にありがとう。マジで、一人でこの静かさは耐えれへんかった。マダムのことマジでなんにも知らないけど、これからの人生が最高のものであってほしい。

 

 

 

 

 

 

この出来事以来、家族に何かしらでお迎えをお願いするとき「A駅まで迎えに行ったら良い?(笑)」と言われるようになった。今でも言われる。めちゃくちゃ迷惑をかけマジなので、いじってくれているだけマシである。

 

 

著者:すだち

八方塞がり

*1:不特定多数の人間に向けて書いているから、ちょっとフェイクを入れたり整合性をぶち壊したりしました。話の矛盾に気付いたら、ニヤッとしていてちょうだい。