ちりめんじゃこの命

仮想のアドレナリン

「置いてかないでよ」

「あのさ、結婚するんだよね。.....だから結婚式来てくれる?」

 

新大阪駅の串カツ屋で友人が私の顔を見て言った。結婚?!ああ、パートナーいたよな。いずれそうなるから関西に引っ越したんだったか。

相手どんなんだっけ。顔も見たことないや。歳下?歳上?どうでもいいや。そんなことをコンマ数秒で考えながら、私は、

 

「えー!おめでとう!行く行く!でもさー、結婚式用のドレスないんだよねー。ハァーア痩せなきゃ(ここでカシスオレンジを飲む)。.....いやあ、めでたいねぇ」

 

と早口で返した。我ながらキモすぎる。

 

友人とは高校時代からの付き合いだった。友人のパートナーよりも長いと自信もって言える。お前の知らないことを私は知っているぞ。でも、それも伝えたんだろうなと思うと、悔しい。めちゃくちゃ悔しい。ぽっと出の輩に全てを奪われてしまうのが。こういうのっていわゆる、「BSS」(僕が先に好きだったのに)ってやつなのだろうか。

 

その後、友人とはたわいもない話をした。串カツ屋のカウンターが、途中から小洒落たバーのような雰囲気に見えてきたのは、ハイボールのせいなのだろうか。「お金崩したいから奢らしてー」とほろ酔いのまま奢った。私のささやかな御祝儀である。結婚式を挙げるときは、気持ち多めに御祝儀を渡してやろうかな。

 

ロッカーをさがすついでに、タバコを吸いたい友人のために新大阪駅の中を歩く。1階のほうは喫茶店や定食屋が並んでおり、夕方以降になると人が多くなりそうだなと当たり前のことを思った。友人との会話は楽しい。友人はもう、関西の訛りが出ているので、熊本弁丸出しの私の言葉にケラケラと笑っていた。高校時代、私が修学旅行に行けなかったのをなぜか友人の母親がキレて先生に抗議していたことや、急な大雪でホテルに泊まることになったときの部屋割りで当時私のクラスが「この子と一緒は嫌だ」と堂々と言っててドン引きした話とか、私視点じゃ見れなかった景色を見せてくれた。あの頃──高校時代──はカスで終わりすぎて、どうしようもなくしんどかった日々だった。少なくとも友人がいたおかげでここまで生きてこれたと思っている。重すぎるな。

 

夕方になるにつれて、ホテルのチェックインが近づいてくる。友人に大阪メトロまで行く改札までついてきてもらい、「多分ここで大丈夫だから。」と言われてそのまま別れた。私としては、なんば駅まで着いてきてくれるかな.....という淡い期待をしていたが、いい大人なのでそこで「やだ!置いてかないでよ!」と駄々をこねずに1人で大阪メトロに乗った。この場合、物理的に置いてかれるのは新大阪駅にいる友人なのだが。友人に「ありがとう」とLINEを送ると、「こちらこそ。会えてよかった」と返信が来た。

 

 

私はどうしようもなくこの言葉に救われてしまう。

 

 

 

 

著者:うさぎなべ

暴走機関車